企業研修で「女性特有の健康課題」を扱うとき、私が伝えていること

企業における健康支援は、健康診断や残業規制等、広く従業員に向けて取り組まれてきました。現在、これまで隠れていた課題「女性特有の健康課題」が見えるようにする取り組みが急ピッチで進められています。一つの取り組み方である研修による「女性特有の健康課題」の啓発で、私が伝えていることを紹介します。

「女性特有の健康課題」は個人的な側面はあるが、企業の経営課題である

働く女性にとって、ホルモンバランスやライフイベントに伴う体調変化(20~30代の月経関連の悩み、更年期、婦人科がん、不妊治療等)は、労働生産性だけでなく、仕事を続けるか否かにも影響します。

実際、キャリア相談では、人間関係やキャリアアップ不安だけでなく、多忙によるホルモンバランスの乱れ、更年期、不妊治療等による退職相談があります。頑張りたいけれども、今の働き方、休みの取りにくさでは体調がもたない女性たち、辞めたいわけではなく迷惑をかけたくないから退職を検討する女性たちが一定数いるのです。つまり、企業における女性の健康課題支援は、労働生産性低下、人材の損失、組織の業務継続性や活力低下、エンゲージメント低下という点で経営課題の1つなのです。

この流れを後押ししてきたのが政策です。令和7年改正「女性活躍推進法」の基本原則で、女性の職業生活における活躍の推進に当たっては、女性の健康上の特性に配慮して行われるべき旨が明確化されました。そして、「女性版骨太の方針2026」では、「健康」が重点分野の一つに位置づけられました。ライフステージごとの性差に由来する健康課題への対応、プレコンセプションケアの推進、職域健診を活用した女性の健康課題への対応強化、そして企業・保険者における対応の推進が挙げられています。健康課題に起因する望まない離職を防ぐことが、女性活躍の前提として明確に位置づけられたということです。

経済産業省が2024年に公表した「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」では、女性特有の健康課題(月経随伴症状・更年期症状・婦人科がん・不妊治療の4項目)による社会全体の経済損失は、約3兆4千億円と試算されています。

女性社員も管理職もピンとこない、戸惑ったとしても無理はない

女性個人のこととして隠れてきた「女性特有の健康課題」を、組織として見えるようにしていく一手段として、研修による啓発と対応力の向上があります。

実際、女性社員対象の「キャリア研修」、管理職対象の「部下のキャリア支援研修」のなかで、女性特有の健康課題について解説し始めると、女性社員も管理職もピンときていない感じ、戸惑う感じが伝わってきます。

男性の健康課題の多くは生活習慣病で、これまでは組織の多数派は男性だったということが影響し、健康が課題になるのは40~50代というイメージが強いのだろうと想像します。管理職がキャリア支援をしているのは、20~30代の部下が多いので、管理職から見れば、健康が課題となること自体がピンとこないのだろうと思います。

一方、20~30代の女性にとっても、「女性の健康課題?なにが課題なの?」という様子です。そもそも女性にとって、「20~30代の月経関連の悩みと仕事への影響」は、個人的なことであり、悩み・困りごとがあるのは当たり前のことであり、自分が我慢するものなのです。

だから、女性が職場で相談することもなかった。管理職も気にする、話題にするきっかけもなかった。

本来は会社・組織の課題である「女性特有の健康課題」ですが、これまでは女性個人のこととして隠れてきたので、急に見せられて、オープンに相談するといいですよと言われても、女性社員も管理職も戸惑うのは無理もないことだと思います。

でも、「男女での健康課題の違い(年代、疾病等)」、「20~30代の月経関連の悩みと仕事、キャリアへの影響」を説明すると、関心度がぐっと上がるのがよくわかります。女性特有の健康課題のために、上司に相談することなく「挑戦することを諦めた」、「仕事を続けることができなかった」人がいる事実を、しっかりと受け止めてもらえたと感じます。

「婦人科かかりつけ医」と「プレコンセプションケア※」が重要

私は研修の中で、「婦人科かかりつけ医」と「プレコンセプションケア」の重要性を伝えています。

※2012年世界保健機関(WHO)
「プレコンセプションケアとは、妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義。
※こども家庭庁
「性別を問わず、適切な時期に性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う概念」と説明。2025年5月にはこども家庭庁が「プレコンセプションケア推進5か年計画」を公表し、推進中。

私がこの2つを研修で扱うのは、悩んでいる時間にも精神的に消耗すること、また、不調に疾病が隠れていた場合、その治療が長期化してしまうことで、精神的に消耗し、結果、モチベーションや活力が低下してしまうからです。

生理痛やPMSをしかたないことだと我慢してしまう。どこの婦人科に相談したらいいかわからない。そのまま年齢を重ね、妊娠を考えたときに初めて検査を受けて、そこから疾病治療や不妊治療が始まる。この流れは、キャリアのなかで経験も体力もある充実した時期に、治療の時期が重なってしまうのです。

かかりつけの婦人科を持っておくことで、早い段階で自分の状態を知っておくことができる、必要な治療に早くたどりつく。キャリアや人生・家族の選択肢を狭めないでほしいのです。個人のキャリアの停滞は企業においても損失です。1社でも多くの企業さんに啓発に取り組んでいただきたいです。

参考
・はじめようプレコンセプションケア(こども家庭庁) 
・プレコンセプションケア(東京都福祉局)※東京都在住の方は助成情報も含めこちらをご一読ください 

まとめ

研修の場では、管理職からは「生理という言葉を男性の自分が言うのはどう思われるのだろう?」、女性社員からは「上司に自分の体調のことを相談するのは恥ずかしいし、したことがない」という声があがります。それは、個人に焦点を当てているからこそ感じることだと考えます。

「個々人の困りごとは、他の誰かの困りごと」、それに対して「組織として対処していくことが、誰もが働き続けられる環境づくりにつながる」という意識に転換することが第一歩になります。

女性社員は、後輩や同僚にも同じことに悩んでいる人がいるかもしれません。勇気をもって、みんなのために自分を事例として上司に相談してほしいです。誰かが一歩を踏み出すことで変わる、一歩踏み出すと意外に応援者がいることをぜひ信じてください。

「女性特有の健康課題」、体調について、職場の話題にしていいという雰囲気づくり、相談しやすい環境づくりは管理職の大きな役割です。管理職の方は、職場のミーティングの場で、「研修で女性の生理による不調について情報提供があったこと、個人的なことと考えずに、誰もがよい状態で仕事に取り組むために、職場としてできること、お互いにできることを考えていきたいこと」を伝えることから始めてみませんか?

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