止まらない少子化と、企業に問われること
少子化の進行が止まりません。厚生労働省が2026年2月に公表した人口動態統計の速報値によると、2025年に日本で生まれた子どもの数(外国人を含む)は前年比2.1%減の70万5809人で、10年連続で過去最少を更新しました。国の将来推計より17年早いペースで少子化が進んでいると報じられています。合計特殊出生率も、2024年の1.15からさらに低下し、2025年は1.13前後で過去最低を更新する見通しです。労働力人口の縮小は避けられず、社員一人ひとりに長く意欲をもって働いてもらうことが、企業にとってますます重要な経営課題になっています。
キャリア研修の現場で語られる「いつ産んだらいいのでしょうか?」
私は20代30代の社員を対象としたキャリア研修の講師を務めることが多いのですが、研修でキャリアプランを作成し、グループワークで意見交換をしていただくと、男女問わず「子どもをもつことを希望している」と語る方が多いと感じます。「仕事か家庭か」ではなく「仕事も家庭も」と考えている方が、若い世代では当たり前になっているのだと、実感します。
そして女性社員からは、ほぼ毎回といっていいほど、こんな悩みが語られます。

30代前半までに産んだ方がいいと聞いたことがあります。でもキャリアを考えると、仕事・キャリアが中断してしまう。いつ産んだらいいのでしょうか?



そもそも妊娠するかどうかもわからないのに、上司には相談できません。
一人で抱え込んで、答えの出ない問いの前で立ち止まっている方が、本当に多くいらっしゃいます。
「妊孕性を扱うのはリスク」という企業側の悩み
一方で、企業側にも切実な悩みがあります。私が「キャリア研修」や「不妊治療と仕事の両立研修」の依頼を受ける際、企業のご担当者からしばしばお願いされるのが、次のようなご要望です。
妊孕性についての情報提供は、研修内容から除外してください。
「妊孕性(にんようせい)」とは、男性、女性の妊娠する力のことです。会社が妊孕性について情報提供すると、社員に出産を強要・推奨しているように受け取られかねないというリスク、懸念を抱く企業が多いようです。出産は極めて個人的な選択ですから、企業として慎重になるということは理解できます。
「社員は知りたい・相談したい」「企業は踏み込めない」というギャップが招く損失
ただ、この「社員は知りたい・相談したい」「企業は踏み込めない」というギャップが、現場では深刻な事態を生んでいます。妊孕性について知らないまま時間が経ち、気づいたときには自然妊娠の可能性が下がっていた、不妊治療の開始が遅れたことで治療が長期化した、結果として妊娠に至らず深い後悔を抱えながら働き続けている……こうした事例を、キャリア相談の現場でたびたび伺ってきました。
ある方は、振り返って「子どもがほしいと思いながらも仕事に集中していると、自分の体のことは後回しになってしまいました。もっと早く考えていれば、違う選択ができたのではないかと思います。」とおっしゃっていました。
プライベートでの悩みや後悔は、仕事のモチベーションにも大きく影響します。それが退職に至るケースや、キャリアの停滞をひきずってしまうケースにつながっているのが現実です。会社としては「踏み込まないことが配慮」とお考えになった選択が、結果的に意欲のある社員の離職や活躍機会の喪失を招いてしまっている――企業にとっても本人にとっても、本意ではないはずです。
「希望する人への、個別事情に応じた支援」として位置づける
発想を転換し「妊孕性の情報提供」と「出産の推奨」は別のものとして捉えることを提案します。会社として打ち出すメッセージは、「子どもを産みましょう」ではなく、全社員を対象とするキャリア支援のメッセージです。
「希望する人には」という一言が、とても大事です。出産を希望しない方、パートナーがいない方、すでに不妊治療中の方、子育て中の方、男性社員……それぞれの状況に応じた支援メニューのひとつとして、妊孕性に関する情報提供と相談機会を位置づける、ということです。こうすれば、企業側の「強要・推奨」のリスクは下がり、必要としている社員には支援を届けることができます。
会社の「表明」が、上司への相談のハードルを下げる
そして、この「表明」が、女性社員の最大の壁である「上司に相談できない」という心理的ハードルを下げることにつながります。研修の場でも、「妊娠するかどうかもわからないのに、上司には相談できません。」、「キャリアの相談だけのつもりが、出産の話まで踏み込まれたら困ります。」、「逆に、出産を考えていると言ったら、重要な仕事から外されるのではないかと不安です。」といった声を聞きます。
こうした不安は、社員個人の努力では解消できないものです。会社として「この話題を取り扱う準備があります」というメッセージが上から示されて初めて、社員は安心して相談の一歩を踏み出せます。上司の側も、「これはキャリア支援の一環として聴いていい話題なのだ」と認識でき、適切に対応できるようになります。
女性社員にとっても、「会社は私のキャリアを長期的に考えてくれている」というメッセージは、エンゲージメントを大きく高めるものです。短期の成果だけでなく、ライフイベントを含めた長い職業人生に企業が伴走する姿勢を示すことは、女性社員に限らず、男性社員や若手社員、これから入社する人にとっても、安心して長く働ける職場の証になっていきます。
少子化が想定を超えるスピードで進み、労働力人口が縮小していくこれからの時代、一人ひとりの社員に長く、いきいきと力を発揮し続けてもらうことは、重要な経営課題といえます。妊孕性を踏まえた「キャリア支援」「不妊治療との両立支援」は、これまで企業が踏み込めずにいた領域だからこそ、踏み出した企業から確実に成果が出てくる施策だと考えています。
「いつ産んだらいいのでしょうか?」と悩む女性社員に、上司や会社が「一緒に考えるよ」と応えられる職場をつくる。それが、これからの女性活躍推進、そして意欲ある社員の離職防止・活躍支援の、確かな一歩になると思います。



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