企業の女性”活用”政策の大きな転換点となった「男女雇用機会均等法」の施行(1986年)。1992年「育児介護休業法」施行、2003年「次世代育成支援対策推進法」施行、法律の施行やその後の改正。
法の施行、改正にそって、約40年かけて女性活躍推進に取り組んできた企業とこれから始める企業で、女性社員の成長と組織貢献に大きく差がついています。女性活用の時代を経て、女性活躍支援に早くから取り組んできた企業は「ダイバーシティ、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」の取り組み=経営課題・すべての人の課題=に発展しています。今から始める企業のなかには、ことばとしては「ダイバーシティ、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」を使っていますが、単に属性の多様性(男性組織に女性が追加されただけ)に偏った取り組みで、意識としては「女性活用」の企業がまだまだあります。
政府方針『2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取組を進める』。 日本全体として約40年の取り組みで届かなかった目標を、あと7年で実現していくためには、過去の学びをいかしていくことが大切ではないでしょうか。「女性活用」から「女性活躍支援」、そして「ダイバーシティ、DEI」の流れを、私の視点(働き続けてきた女性、女性活躍支援者)で振り返ってみます。
● 1980年代~2000年頃 女性活用の時代
最近ではめっきり聞かなくなった「女性活用」ということばに象徴される時代です。正確な定義はないと思われますが、ダイバーシティの歴史の実感からすると、「女性」を「組織(男性中心であることが多い)」が活用するという意味あいだったと思います。「女性活用」とは、いわば頭数としての女性を増やす取り組みで、従来型の男性の組織マネジメントスタイル・業務の進め方・働き方に女性をはめ込んでいく発想で、働き続ける女性を増やすために「両立支援制度」の整備が進み始めました。
「女性活用」の取り組みでは、次のような課題がみえてきました。
- 「両立支援制度」等の制度はあっても、従来の男性中心の働き方の組織では利用しづらい。両立中は職場での居心地が悪く、続けにくい(退職してしまう)。
- 出産・育児で辞めない女性も出始めたけれども、上司である管理職の支援スキル・支援経験不足により両立女性がキャリアの停滞(マミートラック)に陥ることが多い。
- ”女性”とひとくくりにできない多様性があるが、子育てとの両立支援に偏った取り組みだったので、女性同士に不納得感など感情的な溝が生じる。
そこで出てきたのが、「女性活躍推進」です。
● 2000年代~2010年頃 女性活躍推進の時代
「女性活躍推進」では、対象となったのはすべての女性でした。そして、企業には、従来型の男性の組織マネジメントスタイル・業務の進め方・働き方のうち、女性の活躍を阻害しているものがあるならば変えていくという意思が求められました。「女性活躍支援」とは、会社は採用や登用基準、人事・人事評価制度を性別を問わずに活躍できるよう改定し、また両立支援制度を必要な人が使いやすいよう環境づくりをする。管理職は女性の意志・意思を引き出しながら、機会を与え、鍛える。女性社員は自分の意志・意思をことばにし、伝え、役割と責任を広げていく。
「女性活躍推進」の取り組みは、管理職と女性社員中心の取り組みに限定され、組織の多数を占める男性社員は当事者意識をもてない(実感しづらい)という課題がみえてきました。
さらに、1995年阪神淡路大震災、2011年東日本大震災をはじめとする自然災害、直近ではコロナ禍を経て、働く人の価値観が変わってきました。たとえば、「家族」「心の豊かさ」を大切にする、男女問わずそのような働き方や生き方を志向する人が増えています。たとえば、男性の育休取得意向が上がっている、自分の志向にあった企業に転職する人が増えているのです。
このような課題や変化は、「ダイバーシティ経営」の具体策として展開されつつあります。
● 2010年前後~現在 ダイバーシティ経営の時代
「女性活用」⇒(課題)⇒「女性活躍支援」⇒(課題)⇒働く男女の価値観の変化の顕在化の流れのなかで、経営課題としては「ダイバーシティ、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)」の取り組みに、働くすべての人の課題としては「仕事を通じた自己実現」の追求に繋がっていきました。役員、管理職、すべての社員が、それぞれの立場で当事者意識をもち、すべての人が活躍できる組織づくりにそれぞれの立場と責任で取り組んでいく。今はまさに、そういう時なのだと思います。
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